「朝の読書」1万校達成にあたって
朝の読書推進協議会 理事長 大塚笑子(おおつか・えみこ)
- 『朝の読書』の全国実施校数が1万校を突破し、誠に喜ばしく夢のようです。
- この『朝の読書』は15年前、元同僚の林公(はやし・ひろし)先生の提唱を自分の担任するクラスで実践して成功し、紆余曲折はありながらも全校一斉の『朝の読書』の突破口となりました。そして、この『朝の読書』の教育的効果の素晴らしさを全国に広めるため、全国の小・中・高約4万校に向けて葉書を書き続けました。また休日には講演活動などに取り組んで参りましたが、4〜5年経過して実践校が全国で100校ぐらいまでに広まった頃には、二人だけの活動には限界が訪れていました。経済的にも労力的にも精神的にも一歩も先に進めなくなった時に、出版界の株式会社トーハンから全社を挙げて支援したいとの申し出がありました。この支援があって、運動を組織的に営むことが可能となり、教師を対象にした「全国縦断朝の読書交流会」の開催や『朝の読書』の実態調査などができることになりました。
- 『朝の読書』とは、始業前の10分間、生徒も教師も、思い思いの好きな本を自分のクラスで読むという、教育実践として実に簡単な方法です。但し、「みんなでやる」「毎日やる」「好きな本でよい」「ただ読むだけ」という四原則があります。『朝の読書』のねらいは、読書本来の楽しみや喜びを感じ、自由や解放感を味わい、想像力や感性、洞察力や判断力、精神の散策や心の癒し、向学心や探求心、優しさや思いやり、心の潤いや心の豊かさ等々を日々育んで日常の生活の中にそれを生かし、希望や夢を抱いて、明るく、楽しく、元気に知的な人生を歩んでほしいという願いがあります。
- 『朝の読書』の素晴らしいところは、これまで読書嫌い、読まず嫌いの子どもたちが、自分が読める本、興味のある本を自分で選んで読むことにより、読書がごく自然に好きになっていくことです。読書は難しいもの、読書イコール勉強という概念を取り除き、読書になじまない子どもたちに、その子の能力を超えたものを強要せず、自分で選んだ本を自由に読むことが功を奏していると思います。また、幼児・児童期に読書環境に恵まれた家庭で育ってきた子どもたちは、『朝の読書』の時間に、より深く読書を楽しんでいるようです。
- 今を生きる子どもたちは、個々それぞれに大なり小なり様々な悩みや問題を引きずりながら学校に登校してきます。学業や友達のことで悩んでいる子ども、子ども自身ではとうてい解決しきれない複雑な家庭の問題。そんな子どもたちが、自分の心の悩みや苦しみ、悲しさや辛さを癒してくれるのが『朝の読書』の時間であり、自分を励ましてくれる本を読むことで、確実に生きる力と心の成長を育んでいるのです。
- 学校の1日が静寂な『朝の読書』から始まり、子どもたちは本を手に目を輝かせながら自分と語らい、毎朝新しい発見をしてます。子どもたちが読書する姿は実に美しく、素晴らしい風景であり、全国1万校の『朝の読書』の実践校は、どの学校も、どのクラスでもみな同じ風景なのです。そして『朝の読書』は、日本の未来を担う子どもたちのためにあるのです。
- (2002年9月)